施設で働いていた頃、見学に来たご夫婦から何度も同じ質問を受けました。
「里親と養子縁組って、何が違うんですか」という質問です。
はじめまして、小暮あさみと申します。
群馬県内の児童養護施設で、児童指導員として12年働きました。
社会福祉士の資格を持っていますが、いまは前橋市で2人の子供を育てながら、福祉や子育ての記事を書いています。
この質問への答えは、実はとても短いものです。
ただ、短い答えの裏には、子供の側から見ないと分からない違いがいくつもあります。
この記事では、まず違いの芯を1つに絞ってお伝えします。
そのうえで里親制度と養子縁組の中身、施設で暮らす子供から見た景色、そして相談先まで順番に説明していきます。
目次
一番の違いは「法律上の親子になるかどうか」
里親は、児童相談所から子供の養育を委託される仕組みです。
子供と里親のあいだに、法律上の親子関係は生まれません。
親権は実親に残ったままで、子供の苗字も変わりません。
養子縁組は、養親と子供が法律上の親子になる制度です。
養親が親権者となり、戸籍にもその関係が記載されます。
法務省の養子縁組について知ろうというページにも、里親は法律上の親子関係を生じさせるものではなく、養子縁組はそれを生じさせる、という違いがはっきり書かれています。
もう1つ、期間の違いがあります。
里親は「一定期間、家庭で預かる」制度です。
子供が実親のもとへ帰ったり、18歳で自立したりすれば委託は終わります。
養子縁組には期限がありません。
表にすると、こうなります。
| 比較する点 | 里親 | 普通養子縁組 | 特別養子縁組 |
|---|---|---|---|
| 法律上の親子関係 | 生じない | 生じる | 生じる |
| 実親との法的な関係 | 残る(親権も実親) | 残る | 終了する |
| 期間 | 原則18歳まで(延長あり) | 期限なし | 期限なし |
| 戸籍の記載 | 変わらない | 続柄は「養子・養女」 | 続柄は「長男・長女」など |
| 公費からの生活費・手当 | あり | なし | なし |
| 決めるのは誰か | 児童相談所 | 当事者の合意と届出 | 家庭裁判所の審判 |
養子縁組が2つに分かれていることに気づいた方もいると思います。
この違いはあとで詳しく説明します。
里親制度は「子供を一定期間、家庭で預かる」仕組み
里親には4つの種類がある
里親と一口に言っても、制度上は4つの種類があります。
- 養育里親:家庭に戻るまで、または自立するまでの子供を預かる。もっとも人数が多い
- 専門里親:虐待や非行、障害などで特に手厚い支援が必要な子供を預かる
- 養子縁組里親:養子縁組を前提に、成立までのあいだ一緒に暮らす
- 親族里親:親が亡くなったり入院したりして育てられないとき、祖父母などの親族が預かる
群馬県ではこれに加えて、数日から2か月ほど預かる短期の里親も募集しています。
里親手当と生活費は公費から出る
里親には、子供を育てるための費用が公費から支払われます。
こども家庭庁が2026年3月に更新した資料社会的養育の推進に向けてによると、令和7年度の単価は次のとおりです。
| 項目 | 月額(子供1人あたり) |
|---|---|
| 里親手当(養育里親) | 90,000円 |
| 里親手当(専門里親) | 141,000円 |
| 一般生活費(乳児) | 65,910円 |
| 一般生活費(乳児以外) | 57,080円 |
このほかに教育費や医療費なども別に支払われます。
ただし里親手当が出るのは養育里親と専門里親だけです。
養子縁組里親と親族里親には手当はなく、生活費などの実費だけが支給されます。
現場にいた頃、この金額を見て「意外と出るんですね」と言う方がいました。
けれど手当を収入と考えて始めた家庭は、長く続かない印象があります。
子供の生活を支える費用として見てもらえると、受け取る側としては安心でした。
独身でも共働きでも、里親になれる
「夫婦でないと無理ですよね」という質問もよく受けました。
こども家庭庁の里親特設サイトには、独身だから一律に里親になれないわけではない、と明記されています。
共働きも基本的に問題ありません。
登録までの流れは、おおむね次のとおりです。
- 児童相談所や里親支援センターに相談する
- 数日間の研修を受け、家庭訪問で暮らしぶりを確認してもらう
- 都道府県などの審査を経て登録される
- 面会や外出、宿泊を重ねてから、委託が始まる
登録から委託までには時間がかかります。
子供と里親の相性を、児童相談所と施設が一緒に見ていくためです。
養子縁組には「普通」と「特別」の2種類がある
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組があります。
名前は似ていますが、中身はかなり違います。
普通養子縁組は、養親と養子の合意と役所への届出で成立します。
養親は20歳以上であればよく、実親との親子関係はそのまま残ります。
戸籍の続柄は「養子」「養女」と書かれ、実親の名前も載ります。
未成年を養子にする場合は、届出の前に家庭裁判所の許可が必要です。
特別養子縁組は、子供の福祉のために作られた制度です。
実親との法的な親子関係を終わらせ、養親との関係だけを残します。
裁判所の案内ページ特別養子適格の確認・特別養子縁組成立によれば、主な要件は次のとおりです。
- 子供は原則として15歳未満
- 養親は配偶者がいて、原則25歳以上。夫婦で一緒に縁組する
- 家庭裁判所の審判で成立する
- 離縁は原則として認められない
このほか民法では、6か月以上の養育の様子を見たうえで判断すると定められています。
戸籍の続柄は「長男」「長女」のように実子と同じ形になります。
子供の年齢が「原則15歳未満」になったのは2020年4月からです。
それまでは原則6歳未満でした。
この改正で、施設で暮らす学齢期の子供にも特別養子縁組の道が広がりました。
こども家庭庁の資料「特別養子縁組の現状」によれば、令和6年に成立した特別養子縁組は563件です。
社会的養護の子供の数と比べると、まだ多い数字とは言えません。
施設の子供が特別養子縁組に至るまで
施設で暮らす子供が特別養子縁組で新しい家庭に迎えられる場合、いきなり縁組の手続きが始まるわけではありません。
まず養子縁組里親として登録し、面会や外泊を重ねて、同居を始めます。
そのうえで家庭裁判所に申し立て、審判を待ちます。
つまり養子縁組を望む家庭も、最初は「里親」として子供と出会うことが多いのです。
ここが、里親と養子縁組を別々の制度として覚えるだけでは見えにくいところです。
里親のまま、養子縁組をしない選択もある
「里親になったら、いずれ養子縁組しないといけないのでしょうか」と聞かれることもあります。
答えは、いいえです。
養育里親として預かる子供の多くは、実親との関係を残したまま暮らしています。
実親のもとに帰ることを目指す子もいれば、里親家庭から自立していく子もいます。
本人が実親とのつながりを残したいと望むこともあります。
養子縁組は、子供と実親、養親のそれぞれの事情がそろったときに選ばれる道です。
里親でいることは、その手前の段階ではなく、それ自体が1つの形です。
施設で暮らす子供の側から見ると、こう違う
ここまでは大人の側から見た制度の話でした。
私が施設で見てきたのは、子供の側から見た景色です。
こども家庭庁の資料によれば、親と離れて暮らす社会的養護の子供は全国で約4万2千人います。
そのうち児童養護施設で暮らす子供は21,472人で、施設は全国に607か所あります。
里親やファミリーホームなど家庭に委託されている割合、いわゆる里親等委託率は令和6年度末で26.3%でした。
国は令和11年度までに、乳幼児で75%以上、学童期以降で50%以上を目標にしています。
群馬県は31.2%で、全国平均よりは高い水準です。
それでも施設で暮らす子供のほうが、まだ多数派です。
施設から里親家庭へ移る子供は、移る前に何度か里親さんと会います。
最初は施設の面会室で1時間、次は外出、それから外泊と段階を踏みます。
この期間の子供は、うれしさと不安を同時に抱えています。
里親家庭に移ってからも、しばらくは「試し行動」と呼ばれる時期が来ることがあります。
わざと困らせるようなことをして、この人は自分を見捨てないか確かめる行動です。
施設の職員は、移ったあとも児童相談所と一緒に里親さんの相談に乗ります。
子供の側から見ると、里親は「実親のもとへ帰る可能性を残しながら家庭で暮らす」道です。
特別養子縁組は「新しい家族として、これから一生を共にする」道です。
どちらが上ということはありません。
その子の事情に合う形が選ばれることが、いちばん大切です。
養子として育ち、施設の子供たちを支え続ける人がいる
養子として育った人が、大人になってから施設の子供たちを支える例もあります。
前橋にゆかりのある人で言えば、エステサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の創業者、たかの友梨さんがそうです。
上毛新聞が2018年に連載した「心の譜」で、たかの友梨さんは自身の生い立ちを語っています。
1948年に生まれ、出生後すぐ養子に出されたこと。
3歳のときに養母に引き取られ、前橋の中学校と定時制高校に通ったこと。
中学生のときに自分が養子だったと知り、簡単には受け止められなかったこと。
2022年にはテレビ番組でも養子だったことを話し、デイリースポーツが記事にしています。
たかの友梨さんは、1989年から前橋市の児童養護施設「鐘の鳴る丘少年の家」を支援してきました。
1947年創立のこの施設は、群馬県内でも歴史の長い児童養護施設です。
公式サイトによれば、支援は本人一個人の活動として始まり、1995年からは後援会長を務めています。
1999年からは毎年夏に子供たちをディズニーランドへ招待し、冬には社員がクリスマス会を開いています。
2002年には体育館、2007年には食育のための施設を寄贈し、災害時の寄付も重ねて、2019年と2025年に紺綬褒章を受章しました。
こうした経歴や社会貢献の記録は、たかの友梨さんの略歴と子供たちへの支援をまとめたWikipediaのページにも整理されています。
ご本人の家族については、週刊女性PRIMEのインタビューで2人の娘さんと過ごす日々が語られている程度で、この記事ではそれ以上には踏み込みません。
私が伝えたいのは、養子として育った経験が、30年以上続く支援の原点になっているということです。
施設で働いていた頃、企業や個人からの支援を受け取る側にいました。
一度きりの寄付もありがたいのですが、毎年同じ時期に同じ人たちが来てくれる支援は、子供の記憶に残ります。
「今年も来てくれた」という経験の積み重ねが、大人を信じる力になるからです。
迷ったら、まず児童相談所か里親相談会へ
里親や養子縁組に少しでも関心があるなら、最初の一歩は相談です。
登録するかどうかは、話を聞いてから決めて構いません。
群馬県内にお住まいなら、窓口は次のとおりです。
- 群馬県中央児童相談所(前橋市野中町):前橋市・伊勢崎市・佐波郡を管轄
- 里親相談会:県内各地の児童相談所などで年間を通じて開かれ、前橋市の中央児童相談所にも会場があります
- 群馬県里親の会:1952年創立の当事者団体で、先輩里親の話が聞けます
制度の詳しい説明や申し込みの流れは、群馬県の里親制度のご案内にまとまっています。
他の都道府県の方は、お住まいの自治体の児童相談所か、こども家庭庁の里親特設サイトから地域の窓口を探せます。
特別養子縁組を考えている方は、児童相談所のほかに民間のあっせん機関という選択肢もあります。
まとめ
里親と養子縁組の一番の違いは、法律上の親子になるかどうかです。
里親は児童相談所からの委託で、親権は実親に残り、期間があります。
養子縁組は養親が親権者になり、期限はありません。
里親には公費から手当や生活費が出て、独身でも共働きでも登録できます。
養子縁組は普通と特別で大きく違い、特別養子縁組は原則15歳未満の子供について家庭裁判所が判断します。
施設で暮らす子供から見れば、里親も養子縁組も「家庭で暮らす」道です。
そして養子として育った人が、大人になって施設の子供たちを支え続けている例もあります。
全国で約4万2千人の子供が、親と離れて暮らしています。
里親になれなくても、この制度を知っている人が1人増えるだけで、子供たちの周りは少し変わります。
気になった方は、まず相談会の日程を調べてみてください。




